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東京高等裁判所 昭和31年(く)63号 決定 1957年2月22日

抗告申立人 小薗清正

訴訟代理人 倉本英雄

主文

本件抗告は之を棄却する。

理由

本件抗告申立人の代理人弁護士倉本英雄の主張する抗告理由は、本決定書末尾添附の抗告申立書に記載のとおりであるから、まず、これについて判断する。

一、抗告理由(四)について

本件告訴事案に対する検察官の裁定は、公訴を維持するに足る証拠がなくて犯罪の嫌疑が不十分であるから公訴を提起せずというのであり、他方、原決定は、被疑者両名の所為は警察職員の執務方法としては正当の域を若干超えている過剰行為ともいうべきものではあるが諸般の事情にかんがみて事件を裁判所の審判に付するのは相当でないから之に付せられたいとの抗告申立人の請求を棄却すると謂うのである。

故に、原決定は検察官裁定とは理由が同一でないこと所論のとおりであるが、被疑者両名を公訴提起あつた地位に置かざることにするものなる点においては両者共通である。而して元来刑事訴訟法第二六六条第二六二条第一項により裁判所のなす決定は、告訴事案に対する検察官の不起訴裁定の存在を前提とし同裁定に不服なため事件を裁判所の審判に付せられたいとの請求あつた場合になされるものではあるが、それは検察官裁定の当否の判断を直接の目的とする事後審的性質のものではなく右請求そのものとしての理由の有無を裁判所独自の見地より判断するものである。従つて原審が抗告申立人の右請求につき之を採用するを相当ならずとして棄却決定をなしたこと自体には所論のような違法の廉あるものではない。

(その他の決定理由は省略する。)

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

弁護人倉本英雄の抗告理由

(四) 原決定の結論的処理。

原決定は、被疑者両名の責任を定めて、正当行為の過剰行為とし、結局犯罪の成立を認定している。然も、検察官酒井亨の処分「犯罪の嫌疑不十分として不起訴」を相当としている。此の判断は理論上矛盾している。犯罪の成立を認めるならば、不起訴処分の理由は、「起訴猶予」であらねばならぬ。「嫌疑不十分」の処理は、犯罪の成立がないことを意味するものである。従つて、原決定は明らかな理由の矛盾を示しており、当然、取り消さねばならない。右の如くにして、原決定は、種々の点に於て、不当であり、従つて、其の結論である請求棄却の決定も亦不当である。依つて、原決定は当然取り消さるべく、且、相当な決定である「被疑者両名を公判に付する」旨の審判を求めるため、本申立てに及ぶものである。

(その他の抗告理由は省略する。)

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